たぬけんとハロウィンのまほう

ハロウィンの夕方、庭で飾りつけをする子どもたちの前に、不思議な妖精「たぬけん」があらわれます。笑いあいながら飾りつけをしているうちに、カボチャとたぬけんのほっぺがぽうっと光り出し、みんなの心に小さな“まほう”が生まれるお話です。

ストーリー

秋の風がすこし冷たくなってきたハロウィンの夕方。子どもたちは庭でカボチャを並べて飾りつけをしていました。そこへ、木のかげから「もふっ」と顔を出したのは――たぬきでも犬でもない、不思議な妖精「たぬけん」でした。

「ねぇねぇ、それ、なにしてるの?」とたぬけんが近づくと、「ハロウィンの飾りを作ってるんだよ!」と子どもたち。たぬけんは首をかしげて、「ハローウィン? ハローって言ったら勝てるの?」と真剣な顔で聞き、みんなは思わず大笑いしました。

「ハローって言うとね、“お菓子”がもらえるの!」と教えられると、たぬけんは目をキラキラさせます。「えっ!? それ魔法じゃん!! ぼくもやる! ハロー! ハロー!」と両手を上げて叫ぶたぬけんに、カボチャたちまでびっくりしているようでした。

飾りつけを手伝うことになったたぬけんは、ガーランドを木にかけようとして、いつのまにか自分の首やおなかにぐるぐる巻きつけてしまいました。「ひゃー! うごけない!」ミイラみたいになった姿に、またみんなの笑い声が広がります。

「よし! ぼくのカボチャは特別だ!」とたぬけんはマジックを手に取り、自分のカボチャに顔を描きはじめました。よく見ると、その顔にはぴょこんと耳がついています。「……それ、たぬけんに似てるね!」「えへへ、かわいいでしょ?」とたぬけんは得意げです。

日が沈むころ、庭に並んだカボチャたちが、ぽうっとオレンジ色に光りはじめました。「わぁ……きれい!」と子どもたちが見上げると、「ねぇ、たぬけんのほっぺも光ってるよ!」と誰かがささやきます。

たぬけんのほっぺも、カボチャの灯りみたいにほんのりオレンジ色に輝いていました。「ぼく、まほうが使えたのかな?」とドキドキするたぬけんに、「たぬけんが笑ってるから、カボチャも笑ったんだよ!」と子どもたちはにっこり答えました。

夜になり、みんなが眠ったあと。たぬけんはそっと庭に戻ってきました。一番大きなカボチャの前に立つと、「きょう、いっしょにいてくれてありがとう」と小さな声でつぶやきながら、カボチャに「ありがとう」と文字を書き、にっこり微笑みました。

翌朝、子どもたちが庭に出ると――カボチャの口がにっこり笑っていました。「ねぇ、これ、たぬけんの魔法かな?」と目を丸くする子どもたち。昨日より少しだけ、庭の空気があたたかく感じられます。

明るい朝の光の中、木のかげからたぬけんがそっと手を振っています。背景には「Happy Halloween!」の旗がゆらゆら。『笑うとね、まほうは勝手にうまれるんだよ。――たぬけんより』そんなメッセージが、みんなの心にふんわりと残るのでした。