ポッコと木枯らしの手紙

ポッコが木枯らしの風に運ばれてきた手紙を通して、春を待つ優しさに気づく物語です。

ストーリー

森の木々の葉っぱが、すっかり色づいたころ。ポッコは、かさかさ音を立てる落ち葉の道を、マフラーを巻いてお散歩していました。「もうすぐ冬が来るのかなぁ。」空は少し灰色で、ひんやりとした風が吹いています。

そのとき――ひゅうぅぅ、と強い風が吹きました。「わっ、冷たい!」ポッコのマフラーが風に飛ばされ、葉っぱといっしょにくるくる舞い上がります。

風がやむと、足もとに落ち葉の山ができていました。ポッコがのぞき込むと、その中で何かがきらりと光っています。「ん? なにこれ?」拾い上げると、それは小さな封筒でした。『春のチューリップより』と書いてあります。

ポッコは近くの切り株にちょこんと座り、そっと手紙を開きました。中には、あたたかい文字が並んでいます。『ポッコへ。春に出会えてうれしかったよ。もうすぐ私は眠るけど、また春になったら会おうね。』

そのとき、またひゅうぅぅ……と風が吹き、落ち葉がポッコのまわりでくるくる踊りだしました。ポッコは風に向かってたずねます。「あなたが、この手紙を届けてくれたの?」すると、風の中にほわっと顔が浮かび、小さな声が聞こえました。「うん、ぼくは木枯らし。みんなの想いを運ぶ風だよ。」

ポッコはうれしそうに笑いました。「春のチューリップさん、元気かな?」木枯らしはやさしく答えます。「今は土の中で眠っているよ。でも、また春になったら目を覚ますんだ。」

ポッコはポケットから小枝を取り出し、一枚の落ち葉にそっと字を書きました。『チューリップさんへ。また春に会おうね。ポッコより』書き終えると、その葉っぱの手紙を木枯らしに手渡します。

木枯らしはうれしそうに、ふわっとふき上げました。「ちゃんと届けるね!」葉っぱの手紙はくるくる回りながら、夕焼け色の空の向こうへ飛んでいきます。ポッコはその姿に向かって、大きく手を振りました。

ふと空を見上げると、白いものがひとつ、ふわりと落ちてきました。ポッコの鼻先に、冷たいかけらがやさしく触れます。「……雪だ!」木枯らしがくすくす笑いました。「春を待つ準備がはじまったね。」

それからポッコは、マフラーをぎゅっと巻き直し、冬の森を笑顔で歩き出しました。空には、淡い光でできたチューリップの形の雲が浮かんでいます。「また春になったら、きっと会えるよね。」ポッコは胸の中でそうつぶやきながら、ほかほかした気持ちで家路につきました。