60代・田中源次郎さんが、噛めない不安から一歩踏み出し、義歯治療を通して食べる喜びと笑顔を取り戻していくストーリーです。
朝の食卓で、源次郎さんはパンを前に手を止めました。「うまく噛めないな……」。好きだった朝ごはんが、最近は少しつらい時間になっていました。
公園のベンチでは友人たちが楽しそうに笑っています。源次郎さんも笑顔を作るものの、つい口を手で隠してしまう。入れ歯が浮いてしまうのが少し怖かったのです。
「お父さん、最近あまり食べてないね。」娘の声がやさしく響きます。「大丈夫だよ」と笑ってみせるものの、心の奥では不安が少しずつ広がっていました。
静かな朝、洗面台の前で義歯を見つめます。「もう、年だから仕方ないか…」。そうつぶやきながらも、どこかで「まだ何とかなるかも」という気持ちもありました。
思いきって歯科医院へ。明るい受付でスタッフが笑顔で迎えてくれ、その表情にこわばっていた心がすっと軽くなりました。
診療室で先生が模型を見せながら話します。「合わない入れ歯には、ちゃんと理由がありますよ。」その言葉に、源次郎さんの胸には少し希望が灯りました。
何度か通ううちに、噛むときの痛みがなくなっていきました。義歯を試着しながら鏡を見ると、自然と「うん、これならいけそうだ」と声が漏れました。
「やっぱり、ごはんはおいしいな。」湯気の向こうで娘の笑顔が返ってきます。久しぶりに味わう“しっかり噛める”幸せ。その温かさが心にも広がっていきました。
噛めるようになると、不思議と体に力が戻ってきました。朝の散歩も足取りが軽く、「今日は少し遠回りして帰ろうか」と空を見上げながら歩きました。
今では、家族と笑い合う朝が当たり前に。パンの香り、コーヒーの湯気、あふれる笑顔。噛む力、そして笑う力。それが源次郎さんの新しい毎日を支えています。